2012年8月12日日曜日

後姿から正面へ

ここ数日、ささやかな論考を作成する最終段階にかかり、書き上げた原稿を読み返っている。取り上げるのは、伝李公麟作「九歌図」である。ここにも二回ほど(2011-4-210-2)メモを書き残した。一年以上この作品を機会あるごとに発表などしてきたが、ようやく一つの小さな纏まりが見えてきた。

「九歌図」は、同じテーマ、しかも同じ通称をもつ二つの系統の作品を指す。もう一方のほうは、元の絵師が描いたもので、まったく別の時代のものとなる。しかも元のそれは、神々の姿だけをクローズアップして描くなど、構図などから見て非常に異質で、両者を並べて論じること自体難しいくらいだ。二つの作品がなんらかの関連を持っていることは想像できるが、それを実際に突き止めることは、そう簡単ではない。その中で、つぎのことが目に止まった。同絵巻の第六段「少司命」は、命を司る神を主人公とする。宋の絵巻では、神が画面に三回登場し、一番右の端に位置するそれが、童子を連れて虚空に向かって去ってゆく。そこで、この場面こそ元の絵巻の内容になったのではないかと気づいた。神と童子が身120812に纏っている服装、それぞれの髪型や髪飾り、そして飛揚する旗などは、明らかに同じものなのだ。ただ神を捉える角度が百八十度反対側に変わったのみだった。あるいはここにこそ、両者の関係を具体的に跡付けする貴重なヒントが隠されているかもしれない。

画面に表現されているのは、太空を飛行する神々である。そこに、まるで巨大なカメラでも持ち込んだように、撮影ポジションを自由自在に移動し、後ろ姿には満足できず、神の正面に立ち位置を回す。絵師の精神的な高揚や筆の躍動を想像するだけで、感動するような光景だった。

The Nine Songs of Qu Yuan (Museum of Fine Arts Boston)
(ここ一年の間に、同美術館の公式サイトはこの作品について中国語タイトルを添え、さらに絵師情報をめぐり、中国語と英語両方で「旧伝」と付け加えた。)

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